The Canadian Modern Language Review, 1983, pp.23-43.
"A Three-Level Curriculum Model for Second Language Education"
第二言語教育のための三段階レベルカリキュラムモデル
Allen, J.P.B.
- 《要旨》
近年、理論中心の言語学から第二外国語としての新しい言語教育の発達への変化が目立つようになってきた。従来は、構造的な文法中心の教授法が主流であり、コミュニケーションとしての言語教育は、ほとんど注目されていなかった。その言語の文法構造を習得すれば文章を作り出せるようになると信じられていたが、実際にその言語をコミュニケーションの手段として使用するまでには至らなかった。そこで、第二外国語教育のための教授法と言語観を確立させる必要が出てきた。
- しかし、コミュニケーション中心の教授法は「経験」によるものが主で、理論として充分に定義されていなかった。また、言語教育の最終ゴールが多様であるため、構造的アプローチはどのような言語教育の目標にも比較的無難に適切であった。そこで第二外国語としての教育を発達させるには、その教授法を学習目標別に細分化する必要があった。
- 第二外国語教育の教授法として、三段階のカリキュラムモデルがカナダのOntario Institute for Studiesin Education のESL プログラムのために考えられた。
- Structural(構造的)
- Functional (機能的)
- Experiential(経験的)
である。これら三段階のカリキュラムが、第二外国語教育のためのカリキュラムの組織的問題全てを解決できるとは思わないが、第二外国語教育としての英語教育(ESL)だけでなく、移民に対する英語教育、専門的な目的のための英語教育など、高校、大学、専門学校に至るまで、また、あらゆる言語教育一般にわたって、有効であると考えられる。
- 「縦」で見る三段階カリキュラムモデル
- 1、構造レベル(Structural Perspective [Communication level 1])
- 基本的な言語特徴(発音、文法、語彙など)に注目する。このレベルでは、学習者が基本的な文の構造や語彙を習得し、流暢に話せる習慣を身に付けさせる。複雑な文ではなく簡単な短文を読ませたり、基本的な文のパターンをたくさん練習して、コミュニケーション能力を養うための、最初の段階である。ここでの教材は学習者にとって、柔軟的で、充分に意味のあるものでなくてはならない。
- 2、機能レベル(Functional Perspective [Communication level 2])
- 言語特徴に注目したあと、さらに談話単位の文の構造に注目する。ここでは、レベル1以上に構文や語彙を学ぶというよりもむしろ、学習言語で話されたり書かれたりしている談話が、どのような構文や語彙で成り立っているかを理解することが期待される。つまり学習者が機能的(Functional)に、様々な場面で使い分けられるだけの言語能力を身に付ける例えば、情報の聞き方や。探し方、約束の仕方、謝罪の仕方、説明の仕方、などが出来るようにならなくてはならない。
- 3、経験レベル(Experiential Perspective[Communication level 3] )
- 言語の性質そのものではなく、社会的、あるいは仕事、学業などの目標達成のために、どうやってその言語を使用するか、という目的のための言語学習に注目する。レベル1と2では、言語の内包的側面に注目してきたが、レベル3では、言語の構造や機能面には全く注目せず、実生活・実社会の中でどれだけ多く可能な限り、言語使用が出来るかを目的としている。学習者のそれぞれの学習目標の達成のために、学習言語に関わるあらゆる材料を使用できる能力、実際に言語を運用する能力を発達させるための段階である。この段階で使用される読み教材や練習問題は、個人が興味を持つことの出来るものを基本とし、教師が使用したいものではなく、学習者がコミュニケーションしたいと望むものを取り入れ、教室の中でも教室の外でも出来るだけたくさん練習する。トピックは、言語の機能や構造によって選ばれたものではなく、状況別、あるいはある特定の場面を想定して選ばれた内容でなくてはならない。イマージョンプログラムもこの段階に含まれる。
- 「周期」で見る三段階カリキュラムモデル
- 上記の三段階レベルはそれぞれに関連し合い、相互に依存し、共に共存しているといえる。レベル2や3に行くためには、レベル1で充分な構文力と語彙力を身に付けておかなければならない。つまり、言語運用をするためには、それに必要な知識を身に付けておく必要がある。また、それぞれのレベル内にも段階があり、初級レベルの「文の構造」から中級、上級レベルのものに至るまで、初級レベルの「機能」から中級、上級レベルにおける機能、そしてレベル3においてもレベル1・2から続いて初級・中級・上級というように「縦」のつながりだけではなく、「横」とのつながりでも、この三段階レベルのカリキュラムモデルは成り立っている。
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