Newbury House, 1987, pp.+213
"LEARNING THROUGH TWO LANGUAGES:
STUDIES OF IMMERSION AND BILINGUAL EDUCATION"
Fred Genesee
二言語を通じての学習:
イマージョン及びバイリンガル教育についての研究
フレッド=ジェネシー
- <概略>
- 1965年にカナダで始まったイマージョンプログラムは、今や研究者たちによって有効な外国語教育方法であると評価され、各地で多くの注目を集めている。本書は、カナダやアメリカ合衆国でのバイリンガル、及びイマージョン教育についての数々の研究の再考であり、総括である。筆者のジェネシーは、言語学、心理言語学、社会心理学、心理学、社会学、人類学、そして教育といった幅広い視点から、包括的な考察をおこなっている。イマージョン教育の有効性が、効果のほどを裏付ける詳細な研究データと共に報告され、読む者を納得させずにはおかない。
- ジェネシーは、まずバイリンガル教育の歴史を概観した後、カナダのフレンチ・イマーションについて触れ、イマージョンプログラムにおける第二言語学習は、認知的なスキルを学んだり、知識を獲得したりすることに付随するものであり、アカデミックなタスクを遂行するための習得を強調している。さらに、マジョリティ言語の子供たちの母語(英語)の発達、L2(フランス語)の発達、そしてアカデミックな到達度(achievement)についての調査結果を示し、マジョリティ言語の子供たちは、バイリンガルプログラムにおいて、彼らの英語力やアカデミックな到達度を損なうことなく、十分な成果をあげていると述べている。特に、第二言語の「聞く・読む」といった機能的な能力は、全般的に高くフランス語母語話者のそれに匹敵する。一方、「話す・書く」といった生産(productive)スキルは母語話者の能力レベルには達していないと報告している。
- もちろん、イマージョンの子供たちは、母語話者にくらべれば頻繁に文法的な誤りを犯すし、それが定着してしまうことも有り得るのだが、彼らが到達した第二言語のレベルは、伝統的な外国語教育が到達したレベルを遥かに凌いでいることも事実なのである。何よりも、ジェネシーはどの分野であれ、どの段階の学習者であれ、アカデミックな発達の成功を重視する。このことは筆者が繰り返し述べていることであり、どのような教育(schooling)であれ、教育のゴールはどの子供にとっても、カリキュラムの全般にわたって、アカデミックな意味において学校で「うまくやる」ということなのであるとしている。即ち、イマージョンプログラムは、母語話者のような言語能力を学習者に身につけさせることはできないが、第二言語を用いて、様々なアカデミックタスクを解決することはできるのである。
- その他、本書では、様々なタイプのイマージョンプログラムが扱われているが、筆者は早期全面(early total)イマージョンは、早期一部(partial)イマージョンや、中期(delayed)イマージョン、晩期(late)イマージョンにくらべて、一般に高い第二言語能力をもたらすと結論づけている。また、イマージョン教育は、マジョリティ/マイノリティの区別や、社会経済的な環境、知的レベル・学習能力の高低に関わらず、すべての子供たち(K-12)にとって、極めて有効なスクールモデルであるとしている。彼らはバイリンガルで教育を受けることで、モノリンガルで教育を受けているグループと同じか、それよりも高いアカデミックレベルに到達できる。特に、数学、理科、社会といった教科がそうである。
- 筆者はアメリカで開発されたtwo-way(双方向)バイリンガルプログラムについても、若干のページを割いている。ジェネシーによれば、サンディエゴのイマージョンプロジェクトが、この種の最初のものであり、公立学校でこのtwo-wayバイリンガルプログラムが始まったのは、1963年フロリダのDade Countyに於いてである。two-wayバイリンガルプログラムでは、多数派言語集団の子供たちは一日中、目標言語話者と同じ授業に出席し、L1とL2の両方の言語で、数年に渡って教科教育を受ける。アメリカの幾つかのtwo-wayプログラムでは、早期全面イマージョンモデルを用い、幼稚園の段階では少数派言語による教育をおこない、G4になるまでの間に英語による教育を増やしていき、後に一日の半分ずつをそれぞれの言語で教科教育を授けるようにするというものもある。二言語は相異なった教科を教えるのに使われ、同時に使用されるということはない。
- この方法に従うと、多数派言語に属する子供たちは、目標言語の母語話者と共に学習する機会を与えられることで、L2の話したり書いたりする能力を高めることができるわけだが、そうだとすれば、多数派と少数派の子供たちのアカデミックな到達と、L2の能力の発達の双方にとって、大いなる可能性を持っているかもしれない。その他、ジェネシーはtwo-wayバイリンガルプログラムの利点として、多数派と少数派の生徒たちの間の、不公平な社会地位関係を変え、社会的な隔たりを縮める可能性をも秘めていると考えている。 このことはtwo-wayバイリンガルプログラムに限らず、イマージョンプログラムに参加した学習者は、モノリンガルで教育を受けた子供たちと比較して、異なる言語や文化を肯定的に受け入れる態度を示すことが、ジェネシーによって指摘されている。とはいえ、異文化理解にも限界があり、カナダのイマージョンプログラムでは、イギリス系のカナディアンのイマージョンプログラムの卒業生は、フランスの仏語話者に対する態度は良好だが、カナダのフランス系カナディアンに対しては、バイリンガルやバイカルチャの大切さは認識していても、受け入れる態度が弱いと報告されている。ジェネシーは、この問題の解決策のひとつとして、他の言語グループのメンバーとの交流や、友情を形成する機会を増やすことを力説している。
以上のような研究の結果を踏まえて、ジェネシーは少数派の生徒たちにとっての効果的な教育の特徴として、(1)言語と教科教育との統合的なアプローチ、(2)第二言語学習のための相互作用的な基盤、(3)アカデミックな教材(material)を学ぶための本質的な動機の三つを挙げているが、Collierはこれらの特徴は、すべての生徒のすべてのプログラムに当てはまるものではないかとして、イマージョンプログラムの更なる可能性を示唆している。
参考文献:
- "THE CANADIAN BILINGUAL IMMERSION DEBATE"
- SSLA.14, 1991. pp.87-97, Virginia P.Collier
戻る