TESOL Quarterly, Vol.13 No.2, June 1979, pp.171-182
"Relating Language Teaching and Content Teaching"
Bernard A. Mohan
言語教育と教科教育との関わりについて
ベーナード A. モーハン
- 〈概略〉
言語教育と教科教育の関係について、これまでの仮説を検証しながら、1)言語を教えることは、教科内容を教えることになる。ただし、その場合、教師に教科に関する知識が求められる。2)L2の生徒たちに教科を教えることは、コミュニケーションを向上させるための方法となる。3)コミュニケーションを向上させるねらいは、彼らが教科内容の分野(content area)で直面するであろう課題に取り組むための、一般的な学習スキルを与えることであり、4)学習スキルの学習を、認知的な領域の周辺で、学習者がどのように位置づけるかという問題である、といった結論を導き出したもの。
- 〈内容〉
言語教育(LT)と教科教育(CT)の関係については、
- 1)教科教育による言語教育
- 2)教科教育を伴う言語教育
- 3)教科教育のための言語教育
- の三つのケースが考えられる。更にタスクを中心とした言語学習(task-centered language learning)に関連して、様々な仮説があり、ごく一般的なものとしては、
- 1a)言語教育は言語学習を助ける(LT→LL)
- 1b)教科教育は教科学習を助ける(CT→CL)
- 1c)教科教育と言語教育は、ともに教科学習と言語学習を助ける
- (CT&LT→CL&LL)
- 1d)教科教育は言語学習を助ける(CT→LL)
- 1e)言語教育は教科学習を助ける(LT→CL)
- などがある。
また、言語教育と教科教育の関わりについては、
- 2a)LTとCTは別のものであり、互いに独立している
- 2b)LTとCTは分けられないものであり、互いに依存している
- 2c)LTとCTと思考活動(thinking activities)は分けられないものであり
- 互いに依存している
- など主として三つの考え方が存在している。
- 1)教科教育による第二言語教育
- 教科教育による言語教育、並びに教科教育は言語学習を助けるという考え方は、フランス語のイマージョン教育の成功に支えられている。イマージョン教育の子供たちのフランス語の到達度の方が、FLSの子供たちより上である(Swain 1974)という報告や、英語の能力についても損傷はない(Mason 1971)といった報告により、言語教育より教科内容をベースとした指導法が最適であるかのように誤解してしまいがちだが、教科教育がどれだけ正確に言語学習を高めることができるのか、言語教育と教科教育はどの程度異なり、独立しているのかについても考えてみる必要がある。
教科教育は成功さえすれば、言語教育としてのすぐれた特徴を備えているといえる。とはいえ、第二言語を教育の媒介とすることは、Stoddart(1968)の英国やカナダの学校の移民の例や、Billow(1961)のコミュニカティブ・クラスの研究からも明らかなように、コミュニケーションの成功を保証するものではない。大切なのは、どのように授業を組み立てるか、どのような実践的な活動(practical activity)を盛り込むか、学習内容が具体的で馴染み深いものであるか、といった点に留意することである。
問題は言語ではなく、コミュニケーションの有無にある。教師は目に見える補助教材を使い、かつ絵や図表、チャートなどの言葉によらないコミュニケーションをも活用する。フィードバックも、コミュニケーションの重要な要素である。更に、教師主導型の授業より、活動(activity)のある生徒中心の雰囲気の中で、生徒に話させる機会を与えることの方が効果的であり(Stevens 1976)、ESLの生徒たちに対してよりコミュニカティブな教科教育が求められている。
- 2)教科教育を組み合わせた第二言語教育
- これは言語教育と教科教育は分けられず、互いに依存しているという考え方とも関連があるが、問題は言語と教科内容をどのように同時に教えるかということである。
Mackey(1965)は、言語と内容に関して、選択(selection)、発表(presentation)、活用(exploitation)、評価(evaluation)、連続(sequencing)の五つの視座を挙げている。まず、言語について、内容について、選択されなければならない。数学のコースを取った生徒は、自動的に数学の言語をも学ぶことになるが、テキストは第二言語学習者用に言語学的に簡単にされなければならないし、逆に数学以外のものを学びたいという時は、より広範囲な教材がコースに加えられなければならない。コースの中では、情報が生徒に伝えられなければならないし、数学に関する内容がうまく伝わったということは、それに伴う言語も理解されたというこになる。どのコースにも活動を盛り込む。発表は言葉によるもの(verbal discourse)でも、言葉によらないもの(non-verbal information)でもかまわない。教科を教える時は、ロールプレイ、シュミレーションゲーム、戯曲化、ディスカションなども活用する。これらは何れも四技能すべてに関わっている。生徒の発話が文法的に正しいかということは、言語コース特有の評価のあり方であるが、教科教育に特徴的なのは、言葉によらない情報に対する言葉によらない生徒の反応を評価することである。言葉の知識と内容の知識を両方評価することは困難なことではないが、言語学習の、あるいは教科学習のゴールをどこに据えるかという問題は残る。コースの連続性に対する一般的な考え方は、内容のつながりを重視し、言語はそれに合わせるべきだ(Cantieni &Tremblay 1973)というものである。例えば、数学の内容を教え、それと付合する言語学的な概念を導き出すというものである。これは第二言語の学習用に作られたテキストであるから可能なことであり、言語の連続性は内容の連続性の犠牲にはならない。具体的な教材を巧みに扱うことで、言語と内容の橋渡しをする。
- 3)教科教育のための第二言語教育
- この場合、言語は学習者の教科学習の達成を助けるために教えられる。例えば、教師は生徒に英語を教え、結果として生徒が教科内容を理解することができるというものである。果たして、どんな言語教育のカリキュラムが、生徒たちに自律的に教科学習の課題(task)をやらせることができるのか。このことは内容が抽象的になる高学年で、特に重要なことである。教科教育のための第二言語教育には、三つのモデルがあり、特別な目的のための英語コースと、ESLの学習スキルのコース(Yorkey 1970)と、第一言語の学習者のために開発されたcontent areaでの読みと学習スキル(Schiller 1963)のコースである。特別な目的のために開発された英語教材には、メディカル・ダイアローグと文型のパターン練習が付いた「くすり」(English Language Services 1966)、読み物と内容に関する質問がついた「デパート」(Margolis 1971)、簡単な用語の解説だけで、内容については自律学習を求める「機械工学の英語」(Glendinning 1974)などがある。
「次の質問に答えなさい」のような学習課題は、生徒たちに、情報を集めること、集めた情報を構成すること、それらを表現することの三つの段階を求める。これらは学習スキルの大きな骨組みになっている。
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