教育学系論集15巻1号 筑波大学教育学系 1990年 pp.13-31
「外国人子弟教育の国際比較研
−日本とアメリカの小学校におけるケーススタデイ−」
村田翼夫/所澤保孝
- 〈内容〉
- 1987年3月、6月、9月に、つくば、東京、横須賀、神戸の4地区の公立小学校数校に通う外国人子弟生徒(計50名)、その親(計46名)、日本人児童(計918名)、及び小学校教員(計53名)に対して、質問紙調査とインタビュー調査をおこなった。
- 一方、1987年10月から11月にかけて、アメリカのカリフォルニア州のロスアンゼルス・カウンティ及び、オレンジ・カウンティの日本語補習校、並びに現地の公立小学校において、日本人子弟(計148名、そのうち24名は現地校)、その親(計150名、現地校は28名)、アメリカ人教員(計21名、現地校のみ)に対して、日本と同様の調査を実施した。本稿はこれら日米の調査結果を比較検討することで、両国の外国人子弟教育にどのような相違点、および類似点があるかを論じたものである。
- 〈質問内容と調査結果〉
- 1、外国人子弟の意見 ア=滞米日本人子弟 日=滞日外国人子弟
- a)教科の理解度
- 算数−「よくわかる」「大体わかる」 アは95.3%、日は62%
- 社会/国語(英語)−「あまりわからない」 アは15%、日は20%
- 図工−「あまりわからない」生徒は、ほとんどいない。
- b)好きになった科目
- 日では、理科・国語・音楽・体育・図工が同率(22%〜24%)で多い。
- アでは、算数だけが39.9%と際だって高い。次は国語で14.9%
- c)嫌いになった科目
- 日では、国語が26%と高い。以下、社会と算数が(12%)続く。
- アでは、社会が24.7%と高い。以下、英語18.3%、理科が14.9%と続く。
- d)学校の勉強以外に習っていること
- 日米ともにサッカーと水泳を習う者が多い。アでは、テニスを習う者が、30.4%と高い。
- 芸能では、日米ともピアノが圧倒的に多い。(アは33.1%、日は20.0%)
- その他、アは学習塾やYMCAに通う者が、20.0%程度いる。
- e)学校の先生の印象
- 「自国の先生と比べて違う」−アは75.0%、日は62.0%
- 「親切である」−アは70.9%、日は64.0%
- 「ていねいに教えてくれる」−アは54.1%、日は48.0%
- 「親しみやすい」−アは41.2%、日は38.0%
- f)学校生活の困難点
- 「言葉のちがい」−アは70.9%、日は60.0%
- 「学校の規則のちがい」−アは31.8%、日は26.0%
- アでは「遊びのちがい」(22.3%)、日では「トイレのちがい」(20.0%)も挙げられた。
- g)学校生活に慣れるまでの日数
- 子弟達は一カ月以内が約30%、父母は六カ月以上要す(アで20.7%、日で43.5%)。
- h)学校生活に関する印象
- 日の場合は、「施設や設備が良い」(64.0%)「校長先生がやさしい」(62.0%)
- 「給食がある」(56.0%、アジア人子弟に多い)など。
- アの場合では、「施設や設備が良い」(66.2%)
- 「校長先生がよく話しかけてくれる」(50.0%)などの他に、
- 「給食・掃除・集団登校がない」から良い(40.5%、11.5%、20.9%)というのも多い。
- 逆に、嫌だと思うことでは、
- 「外人」「日本人」と言われる(日で44.0%、アで35.1%)、
- 「冷たい目で見られる」「ジロジロ見られる」(日で20.0%、アで60.8%)など。
- 日では「掃除をする」(34.0%)「勉強の内容が難しい」(30.0%)、
- アでは「言葉が通じない」66.2%)「指をさされる」(63.5%)
- 「勉強の内容が難しい」(56.1%)も高い。
- 一方、「髪の毛や体に触られる」ことについてはアの54.1%が嫌だと答えているの対して、
日は8.0%しかいない。
- 2、外国人子弟の父母の意見 ア=滞米日本人子弟の父母、日=在日外国人子弟の父母
- a)子供の入学や受け入れで困ったこと
- 「あった」−日は30.4%、アは13.3%
- 日では、「学区制があって自由に学校を選択できない」が71.4%と際立って高い。
- 次は、「スクールバスがない」(35.7%)「手続きが複雑」(28.6%)が続く。
- アでは、「予防接種をしていない」(22.2%)「学年歴のズレ」(16.7%)が挙がった。
- b)今の学校を選んだ理由
- 日米ともに「家に近い。通うのに便利」がトップ。(日が43.5%、アが78.7%)
- 日の場合、その他、「教育委員会から推薦された」(39.1%)
- 「外国人が多い」〔36.9%)などの理由も比率が高い。
- c)現在心配なこと
- 日では、子弟も父母も「勉強についていけない」(子弟38.0%、父母36.9%)
- 「言葉の障害によって欲求不満を起こす」(22.0%、32.6%)を挙げ、
- アでは「勉強についていけない」(12.9%、13.3%)の比率より
- 「帰国後の勉強についていけない」(5.4%、41.3%)を挙げる父母の方が多い。
- d)家庭での使用言語
- 「母語/日本語」−日では39.1%、アでは88.7%
- 「混ぜて使用している」−日では47.8%、アでは4.7%
- e)親の言語学習
- 「している」−日では51.2%、アでは34.7%
- f)外国で教育を受けたことの将来的な意味
- 「外国人とのつきあいに役立つ」(日が63.0%、アが71.3%)
- 「異文化の理解尊重」(日が47.8%、アが71.3%)と高い。その他、
- アの回答には「英語力」(85.3%)もある。
- 3、教員の意見 日=日本人の教員、ア=アメリカ人の教員
- a)外国人子弟の学校教育はどうあるべきか
- 「現地校で教育する」−日は35.8%(外国人子弟の親は65.2%)、アは61.9%
- (日本人子弟の親は17.3%→「現地校と補習校に通わせる」という意見が68.7%)
- b)外国人子弟に対する配慮
- 「日本語/英語の特別指導」−日で89.6%、アで71.4%
- 「補習授業をする」−日で31.0%、アで14.3%
- 「専任教員を配置する」−日で58.6%、アで23.8%
- c)日本語/英語の指導について
- 「取り出し授業をしている」−日で47.2%、アで81.0%
- 「一斉授業の中で指導する」−日で41.5%、アで81.0%
- その他、アでは、「子供同士教え合う」(76.2%)という割合が日の2倍近くもあり、
- 「特別の教材を用意する」も日の26.4%に比べて、アは61.9%と高い。
- d)クラス内の変化/外国人子弟の貢献度
- 「変化があった」(日で60.3%)「大変貢献している」(アで38.1%)
- 「子供が外国や外国人の友達に興味を持つようになった」−日は37.7%、アは61.9%
- 「クラス内に助け合いの心が芽生えた」−日は34.0%、アは23.8%
- その他、教師自身の意見として、日本人教師に「外国語の勉強不足を実感」(45.3%)
- 「外国人に親しみを感じた」(33.9%)などが見られた。
- 〈追加及び、まとめ〉
- 日米双方に於いて、多くの外国人子弟が国語(英語)と社会科に困難を感じていた。算数に関しては、日本に来た外国人子弟が日本に於ける算数の学習にかなり困難を覚えているが、逆にアメリカにいる日本人の子供達は余り困難を感じていないようである。教員に対しては、日米ともに良い印象を持っているようだ。アメリカにいる子供達は、現地校に加えて日本語補習校ににも通っており、現地の子供達に比べると倍近く勉強していることになる。なお、アメリカ人の教員は、日本人の子供、特に男子生徒の学校内でのしつけの悪さを指摘している。
- 以上の調査から、外国人子弟教育の意義は、次の五つにまとめることができる。
- 国際理解教育の促進。児童生徒や教員に、外国や外国人などの理解を促進する直接の契機を与える。
- 国際的人的交流を促進する基礎を作る。
- 学内に外国人子弟がいることで、子供や親や教員に、国語教育や外国語教育などの言葉の教育の重要性を認識させることができる。
- 外国人子弟の入学は、日本の従来の教育慣習、規則、集団的画一教育にとらわれない学校教育の弾力的運営を促すきっかけになり得る。
- 国際協同社会のメンバーとして自覚を持った地球市民の育成につながる。
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