The Modern Language Journal, 67, 1983, pp.330-341.
"Methodology in Transition: The New Foucus on Proficiency"
教授法の変移:
言語使用能力(proficiency)への注目
Omaggio,Alice C.
- <要旨>
長年の間、言葉教育には一つの教授法だけが適切であると考えられてきたが、様々な議論の中で、その考え方が大きく変化してきた。第二次世界大戦後の20年間、言語学者達は自分たちを「合理主義者(理論家)」と「経験主義者(現実家)」とに二分し、どのように言語は教えられるべきかを議論し続けてきた。1970年代には、経験主義者が一つのものではなく、様々なものを取り入れて新しい一つのメソッドを作るようになった。この折衷主義は教授法問題に新しい多様性を加えることになった。1980年代もまだ、多くの言語学者達が言語教育におけるある種のコンセンサスを要求していた。しかし、歴史の中で初めてたった一つだけの教授法を模索するのではなく、様々な方法、アプローチ、教材、カリキュラムなどがまとまって、長期間にわたって存続していくような教授法を確立していくべきであると考え始めた。最も最近の試みは、1980年にボストンで行われたACTFL Priorities Conference であった。ここでは、言語教育を革新させるために可能性のある組織的な原則が提唱された。その原則とは、学習者の様々な段階における言語使用能力(language proficiency )である。ここでは、教授法問題について議論するため、
- 言語教育に関連するACTFL/ETS priorities conference のカギ的要素を明確にし、
- それらの要素に関連した様々な方法やアプローチを比較し、
- 将来、教授法が進化していくであろう方向に関するいくつかの結論を導き出す
ということを試みる。
- Proficiency(言語使用能力)のために教える
- 「能力」を目的とした教授法における要素について、いくつかの仮説が立てらる。まず一つ目は、言語使用能力中心(Proficiency-Oriented)の教授法は、学習者に文脈の中で言語を学んだり、実生活の場面に即して運用するための充分な機会を与える。例えば、初級レベルで取り扱われやすい状況は、旅行のやり方、食物、ホテル、交通など生活に必要な日常に関することや、学校や職場に似せた状況などである。また、簡単な質疑応答の形式や学習者自身のバックグランド、家族、興味などの具体的なトピックについて議論したり書いたりすることを学ぶ。中級、上級にレベルが上がるにつれて、トピックは自分自身の意見を述べたり、社会問題や、抽象的なこと、などへと移っていく。言語使用能力中心の教授法はつまり、コミュニケーションを重視した教授法といえる。教材には、「本物」を多く取り入れ、言語も実際にコミュニケーションで使用されているものを学ぶ。二つ目の仮説は、学習言語が使用される環境の中で必要な状況を、生徒が実際に実行出来る機会を持つことである。教室の中では、どうしても生徒が質問に対して「答える」ばかりになりがちであるが、それは教師中心に授業が行われているためである。教室で生徒に機能別タスクを与えるときは実際の状況に限りなく近い状況を設定することが大切である。仮説の三つ目は、言語使用能力中心の教授法では、言語学的な正確さがおろそかになるのではないか、という危惧がある。コミュニケーションを重視するあまり、語彙や文法的なエラーをそのまま見過ごすのではなく、学習到達目標が高ければ高いほど、早い段階から訂正していくようにする。四つ目の仮説は、言語使用能力中心のメソッドは、学習者の思考力だけでなく、効果的に学習ニーズに答えることが出来る。学習者は、言語学習の過程で不安を覚えたり、葛藤を感じたりするものだが、教師はそのような学習者のニーズにアプローチを変えながら応えていくことができる。学習者に自身を持たせながら、間違いをおそれずに学べる環境を作る。五つ目の仮説は、言語使用能力中心のメソッドは、学習者に他言語の文化を理解させ、学習言語が話されている社会で学習者が生活出来るようになる。長年、言語教育に文化的要素を加えるべきだと言われてきた。異文化理解を促進させるために、教室の中でも外でも、母語話者にインタビューしたりして学習言語の文化的背景を理解する。
- 以上のように紹介した仮説がベストな将来の教授法であるかどうかは定かではないが、現在使われている様々な教授法(The Grammar/Translation Method, The Natural Approach, The Audiolingual Method etc.)に取り入れたり、調整したりしながら、学習者のニーズにより早く、効果的に応えることの出来る教授法を、教師が選ぶことが出来るようにならなければならない。一つの方法で言語を教えるのではなく、様々な方法がこれから先の言語教育に適応されるべきである。
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