文献要約

Language Teaching and Linguistics:Abstracts. Vol 10. No 1, 1977, pp.5-25.
"Foreign Languages for Younger Children:Trends and Assessment"

児童のための外国語教育:
その現状と評価
Stern, H.H. and Weinrib, A.

《要旨》

 児童に対する外国語教育は、ここ25年にわたって非常に興味深いものとして注目されているが、学説、研究、教育、言語政策などの面で様々な問題を抱えている。しかし、過去20年以上にわたる経験から、言語学習は改善されてきたと言える。この調査の中では「児童」(5才から10才までの幼稚園児や小学生)に対する言語教育に注目している。
 移民教育や植民地教育を除く多くの教育機関では1950年辺りまでは、言語教育は中等教育で当然やるべきものと捉えられていた。1953年にユネスコは、外国語教育は基本的で大変重要な教育であると再確認している。特に児童に対する外国語教育の重要性が叫ばれるようになってきたのは、言語学習における目覚ましい発展が要求されていたからである。FLES(Foreign Language in the Elementary School) は、中等教育における外国語教育が不十分なアメリカ合衆国で、最初に提唱された。その後、似たような動きが他の国々にも広がっていった。ここでは、アメリカの他に、カナダ、イギリス、フランス、その他いくつかの西ヨーロッパ諸国の実例を紹介している。これらの国々における初等教育の外国語教育の実例からは、いずれも、「早い時期から外国語を学び始めるので、学ぶ時間がたくさんある、ということの他には特に利点はない(Carroll, 1975)」という結論しか導かれない、というのが現状である。このような不確かな結論を解決するためには、(1)言語学習を始める理想的年齢、(2)学習時間量、(3)言語教育学、(4)教育目標の4つの問題を明確化する必要がある。あらゆる国々で、児童に対する外国語教育が慎重に行われているようだが、進展的な結果はほとんど無く、失望の方がかなり多い。しかし、この調査で明らかにしたかった根本的な原則は、言語教育は何歳からでも始められるということを認識することである。この原則が受け入れられれば、外国語教育を導入するための条件は以下の3基準による。(a)期待される言語習得レベルに到達するために必要な時間、(b)外国語を学ぶ教育的な価値、(c)外国語学習プログラムを維持し発展させるための人材と教材。

それぞれの国の児童に対する外国語教育の実情

1、アメリカ合衆国
 FLESは、近年衰退の道を辿り、バイリンガル教育を推進した1968年のThe Bilingual Education Act が言語教育の指標となってきた。アメリカにおけるバイリンガル教育は主に、
  1. 母語や土着語を維持し、使用する権利の確立のため(スペイン語やナバホ語など)
  2. マイノリティー民族に対する現実的なESL学習法の提供
の2つの目的を持つ。これはアメリカのマルチリンガル国家としての発展を要求してきた人たちに何度も強調されてきた。このようにアメリカではFLES は衰退したが、マイノリティーに対するバイリンガル教育を通して、一部の児童に対する第二言語教育は行われれている。

2、カナダ
 この国は、英語とフランス語の二言語の公用語を持つことで、それぞれの言語圏の国民グループの統一化に頭を悩ませている。初等教育レベルにおける第二言語教育は、特にケベック州とオンタリオで強く推進されている。英国嫌いの両親の間では、子供達に対する「フランス語での指導」への関心が大変強く、その要望が急増しているが過去10年または15年の間、多くの学校が「話す・聞くためのフランス語教育」を導入してきたがその結果はあまり満足のいくものではない。問題は学習時間量、学習を始める年齢、教授法などにあるようである。また、カナダでは「イマージョンプログラム」がカナダの学校の言語教育で重要なアプローチになってきている。イマージョンプログラムの調査報告は大変有望な結果が報告されている。このようにカナダでは、児童に対する毎日15分から20分程度の外国語学習は期待通りのプログラムとは言えないが、フランス語のイマージョンプログラム、特に早期のイマージョンプログラムの実施が明るい兆しを見せている。

3、イギリス
 イギリスの教育者達は、1960年辺りから初等教育における外国語教育に関心を示していた。この関心は、小学校におけるフランス語教育のパイロット計画が1963年に始められたときに、国家規模となっていた。このプロジェクトの第一目的は、通常11才で始められるのを、8才でフランス語の導入を実施するという方法の研究であった。実際このパイロット計画が実施された小学校からの報告によると、フランス語の導入が小学校教育にマイナスではないものの、中等教育における外国語教育に失望的な結果がもたらされた。小学校でフランス語を学んだ生徒は、中学校でのフランス語以外の外国語を選択しない傾向が強くなっていた。さらに、最も議論となったのは、NFER(the National Foundation for Educational Research)の報告によると、フランス語の習得レベルが11才で導入した場合と比べて、特に8才で導入することに本質的な利点が見られなかったことである。この後、小学校における外国語教育を継続するか、やめるかという議論が交わされているが、このような議論は、学校における外国語教育を再検討する有効な議論であろう。

 

4、フランス
 フランスで最初に早期の外国語教育が始められたのは1964年から65年であった。その時1000もの初等外国語教育授業が行われていた。(内、ドイツ語が3分の2、3分の1が英語)また、1964年には、政府が5つの町で8才で英語教育を導入する公式な指示を出した。そのために教師のトレーニングや教材が準備された。しかしながら、それらの結果を評価するための計画は何もなかった。しかし、政府は初等教育における外国語教育の効果は気になっていたし、国の言語政策の観点からも初等外国語教育の位置の見直しの必要性を認識していた。Girad(1974) の報告によると、語学教育は早ければ早いほどよいという期待に反して、授業見学の様子から、約3分の1の生徒が効果的で、3分の1の学生は普通、残り3分の1の生徒は不十分であると判断した。Giradの研究を基に、フランスではその後、初等教育での第二言語教育は普及しなかったといえる。今後もそのメドは立っていない。小規模な調査は時々行われているが、初等レベルの外国語教育には警戒している。

5、その他のヨーロッパ諸国
 フランスのように、他のヨーロッパ諸国も、ある程度の初等教育における外国語教育に関わっている。これらの国々に共通しているには、より効果的な第二言語教育に関心を持っていることである。そしてこれまでに、初等教育における第二言語教育は試験的に計画・実施されているが、残念なことに、わずかな例外を除いては、世界の50カ国の外国語教育の最近の研究の中で、充分に参考になる調査結果資料はない。しかし、ドイツのGompf(1975)によって行われたドイツの調査結果資料は大変参考になるし、またスウェーデンでは、EPALプロジェクトが英語教育の導入の利点について調査している。ヨーロッパではThe Council of Europe が初等教育の言語教育に関するいくつかの会議を主催または協力して行っている。西ヨーロッパにおけるETML(the early teaching of modern languages)の問題を検討する試みが、1976年9月にコペンハーゲンで22ヨーロッパ諸国のシンポジウムでなされた。ここでは、特に言語教育を始める年齢の特定はされなかったが言語教育実施年齢を下げていくことは提言された。そして、初等教育は外国語教育の準備的役割を担っているとし、ETMLに関連した多くの新しい工夫がなされることを勧めた。


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