TESL Canada Journal,Vol.6.No.1,
November 1988, pp.68-83
"Manipulating and Complementing Content Teaching
to Maximize Second Language Learning"
Merrill Swain
第二言語学習を最大限に活かすための
内容教授に関する上手な指導とその補足
メリル スウェイン
- 《概略》
第二言語は内容を学ぶことを通じて良く学ばれる。しかし、これまでの内容の指導( content teaching )は十分であるとは言い難い。内容を指導する時は、意味の理解に力点が置かれる。しかし、第二言語学習者は、話し言葉であれ書き言葉であれ、言語の形態と意味の関係(form-meaning relationships)について、もっと目を向けるべきである。国語(language arts)の時間は内容中心のクラスに於ける言語学習の手助けをする。
- 本稿では、Goodlad(1984)のアメリカに於ける伝統的なコンテントクラスに関する報告や、1985年に香港で三ケ月、カナダのフランス語のイマージョンクラスで永年に渡って観察された事柄を基に、従来型の内容指導の問題点と改善策を論じ、その上で、実際の教育現場に於ける具体的な取り組み例の幾つかを紹介した。
- ●言語学習としての従来型の指導の問題点
L1を広東語とする香港のG8の優秀な生徒たちを二つのグループに分け、一方はカリキュラムの60%を英語で学び、他方はすべての教科を広東語で学んだ。五カ月後、双方の英語力を調査したが、際立った違いは何ら発見できなかった(Ho.1985)。また、オンタリオ・スクールのG3とG6の教師主導型(teacher-fronted lessons)イマージョンクラスを観察し、テープを取って、子供たちの発話の流暢さと長さを調べたところ、まとまった話( sustainted talk )と呼べるものは全体の14%しかないことが判明した。しかしながら、第二言語を使ってまとまった話をさせる機会を与えることは、第二言語学習の進歩のために欠かすことができない。
- クラッシェン(1982)は、学習者にとって肝心なのは、意味の追究だと述べているが、彼らは意味だけでなく、発話の形態にも注意を払うべきである。確かにクラッシェンが指摘する通り、我々は統語論的な形態論的な分析なしにインプットを理解することができる。しかし、そうなると、 selective listening(VanPatten.1985)という問題が起こってくる。selective listeningでは意味内容の理解に注意が向けられ、それがどのように伝えられるかということについては注意が向けられない。学習者は単語の全てを把握する必要がなく、内容がどのように表現されるかということについては無視されてしまう。我々は正確な統語論や形態論の知識なしでも談話を理解することはできるが、それなしでは正確に談話を生み出すことはできない。学習者に言語の形と機能( form-functional )の関係に注意を向けさせるインプットが不可欠である。そのためには、まず学習者に言語を生み出させるようにすることである。そう命じることで、学習者に文法の必要性を気づかせることができる(Swain,1985)し、明快で正確な談話の仕組みを学ぶことで、彼らの発話は句(phrase)や節(clause)以上のひとまとまりの話となる。
- G6のフランス語のイマージョンの歴史の授業では、教師がしばしば一貫性のない情報を生徒たちに与えていたという問題点を指摘できる。過去形を使った教師の質問に対して、学習者は現在形で答えているにも関わらず、19%の文法的な間違いしか訂正されない。中心は、飽くまでも意味内容の理解にあり、コミュニケーションの自然な流れを妨げるので、いちいち訂正することも良いとは言えないのである。
- 教室で生徒たちが耳にするのは、機能的に限られた言葉であるということも問題点の一つである。フランス語のイマージョンクラスから一例を挙げてみると、生徒たちは目上の者に何かを聞く時でさえ必要以上にtuを使ってしまう傾向があり、丁寧さや敬意を表すvousを使った例は極めて少なかった。
- ●どのような改善策があるか
改善策としては、以下の四つが考えられる。
- 生徒たちが様々な機能を使ったインプットを手に入れられるようにする。
- 生徒たちに様々な機能を使って発話をさせる機会を与える。
- 言語的な誤りについて学習者に有効なフィードバックを与える。
- 生徒たちに彼らの言語的に弱いところを自覚させる。
教師が教師自身の言語使用について意識化することや、様々な機能が使えるように内容を検討することも大切である。内容中心のクラスでは、生徒が犯した誤りを全て訂正することは良策とは言えないが、実際の発話場面やはっきりした目的を示すことで、言語使用の正確さを動機づけることはできる。教師は頭ごなしに誤りを訂正したり、正解を繰り返したりするのではなく、彼らが言おうとしていることを問い直し、comprehensible outputができるように生徒たちを手助けすべきである。トピックや教科の中で、学習者が様々な行動に関する言葉を聞き、使う機会を増やすようにすることである。
- ●学習者のニーズを考慮に入れたcontent teachingの例
内容中心のクラスは、言語の四技能が幅広く使えるような活動を取り入れるべきである。先の歴史の授業を例に取って考えてみると、教師は輸出や輸入のことについて言及していたが、品物の納入をめぐる手紙のやり取りなど、過去形を使ったタスクが考えられるし、過去形に限らず、言語使用の他の点も考慮した活動を組み込むことができるはずである。手紙は、誰がどんな用件で書くのかによってスタイルが異なってくるし、それはまた言語と意味の間の関係を反映したものであると言える。
- カリフォルニアのフェアオークス小学校の取り組みを紹介しよう。ここは、低所得層の少数民族が多く住む工業地帯で、子供たちの第一言語(primary language)はスペイン語である。学校案内によると、教師は毎日、実際に出版されている英語の本を子供たちに読んでやっており、その結果、子供たちもまた読書やテキスト作りに興味を示すようになったという。
- この学校のG1のクラスでは、国語の時間に日記(ジャーナル)を書き、最終的にはそれらをまとめて本を作る。本を編集するまでの間には、内容について話し合ったり、推敲したり、絵を描いたりなどの様々な段階や活動が含まれる。G5のクラスでは、同じ作業が、より生徒たちの責任に於いてなされており、間違いのないものを出版したいという意図から、教師は彼らの文法上の誤りをフィードバックしたという。
- G5及びG6のクラスでは、放送部を設け、毎週金曜日に30分だけ、ニュースやお話、ジョーク、CM、ゲストの話などを放送している。ラジオ番組を制作するためには、あらゆる分野の言語が必要であり、また、原稿を用意するために新聞や雑誌を読むなどの、言語を媒体とした課外活動も含まれる。
- G5の生徒たちは、cross-age tutoringといったこともおこなっている。これは生徒たちが思い思いの本を幼稚園に持っていき、子供たちに読んでやって質問を受けるという活動である。その後、生徒たちは各自でフィールドノートを書いて、クラスで発表することになっている。こうした活動を通じて、生徒たちは書いたり話したりする両面で、言語を使用する機会を与えられ、加えて、幼稚園児の言語使用と発達に対して注意するようになり、言語を注意深く、分析的に扱うことにも繋がる。
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