Input in Second Lauguge Acquisition, Gass and Maden(ed), 1985,
"WHEN DOES TEACHER TALK WORK AS INPUT? " pp.235-253
Lily Wong-Fillmore,
教師の発話がインプットとして機能する時
リリイ ウォン フィルモア
- 〈研究課題設定の背景〉
LEP(limited in English proficiency)の子供たちは、特別なことをしなくても英語が身につけられるので、クラス内活動よりも地域との交流を重視すべきであるというのが従来の定説であった。しかし、実際は、多くLEPの子供たちが、学校の授業で必要とされる英語力を身につけることに大きな困難を感じている。
- かつて幼稚園でフィールドワークを行った折、教師が子供たちの言語学習に大きな影響を与えていることに気がついた。四つの非英語話者のクラスを一年間観察したところ、言語学習の成果に際立った違いが認められた。この違いは、民族的あるいは言語的背景とは関係がなく、子供の能力の差でもなかった。にも関わらず、クラス間で差が出たということは、教師の教え方の違いであり、それ以来、授業で教師が使う言葉に注目してきた。
- 学習者に、目標言語を話す教師やクラスメイトとの接触の機会が十分に与えられるならば、学校は英語学習の理想的な場であるに違いない。ところで、多くの学校では、LEPと他の生徒たちが接触する機会は少なく、それゆえ教師および教室内活動の果たす役割は大きいと言える。学生と私が観察していた60人の広東語及びスペイン語話者の子供たちの二つのクラスでは、教師が唯一の英語をインプットする源であった。彼らが英語を使うのは、英語によって授業が行われるもののみで、両親との面接や報告書によっても、教室が唯一の英語話者に接する機会であることがわかった。
- 〈研究対象および研究課題〉
19人のG3-G5相当学年の広東語およびスペイン語話者を研究対象とし、LEPの子供たちの第二言語学習に関する教師の活動について、三年間に渡って観察を続けた。実際に教室に行き、テープやビデオに記録を取った。第二言語の学習が順調にいったクラスと、そうでないクラスとの相違点や、LEPの生徒を教える上で教師の言語活動が学習にどのように影響するかについて着目した。
- 〈研究結果の報告〉
授業展開については、大きくは教師主導型(teacher-directed/teacher-centered)と生徒主導型(open classes/student-centered)の二つがある。これらはLEPの生徒たちに全く異なった語学習の機会を与えるが、私が観察した成功したクラスは、教師主導の活動を最大限に活用したクラスであった。オープンクラスでは、教材の使い方や言語使用の機会の見つけ方などは、個々の生徒自身に任されるので、意欲的で積極的な子供は英語が上達するが、逆に他者と容易に関係が結べないような生徒はほとんど英語を学習しない。また、オープンクラスの場合、全員の学習に必要なだけの英語話者がいない場合もあるし、第一言語が異なる場合は、英語の不完全な形が身についてしまう危険性もある。
- 個人の活動に頼り過ぎるクラスは、言語学習がうまくいかない。生徒たちは自分たちの活動に没頭してしまい、そのあいだ他者と接触したり、言語を使ったりすることがない。生徒たちは教材について教師から説明を受けるか、個人的に質問があって教師のもとに行く以外に、言語的な接触を持たない。
- 言語学習が成功したクラスは、教師主導の活動と個人の活動がバランス良く保たれており、何よりも授業内容の組み立て方そのものが、そうでないクラスとは異なっていた。
- ●言語学習に効果的な授業の特徴●
- a)はっきりとした境目のある、フォーマルで計画性のある授業であること。
- 数学の授業の開始前、教師はいつものように黙って黒板の前に立ち、生徒たちを眺め回し、授業が始まることを示唆する。生徒たちはおしゃべりをやめる。教師は決まった合図や進め方、平素とは違う声色(public voice)を用いる。(例:Lesson 1−Appendix A) 教師からは指示がはっきりと出される。教師は毎回同じパターンを繰り返すので、すべては習慣化されており、生徒たちは何が起こっているか、何に注意を向けるべきか等がよく理解できている。一方、余り効果の上がらなかったクラスでは、物事がいつ始まって終わるのか、何が起こっていて、次に何が起こるのかが判然としていなかった。
- b)授業にシナリオがあること。
- 言語学習が成功したクラスでは、授業全体の構成、授業中の活動、言語による指示の与え方など、授業全般に渡って顕著な一貫性が見出せた。(例:Lesson 1)
- 読みの授業であれば、新出語彙の抜き出し、意味や使い方についての議論、一斉読み、黙読、指名読みといった手順が考えられる。こうした授業は退屈かもしれないが、毎回繰り返すことで、子供たちは手順を覚え、活動に参加することができる。
- 学習者にとってプレゼンテーションの一貫性は重要である。授業の際に教師が使う言語についても同様である。プレゼンテーションに於ける統一や一貫性は、新しい教材に対する解釈や学習に足場を与え、理解力の主要部分である予想する力に結び付く。
- 上記の授業に見られた、構成に関する今ひとつ重要な点は、学習者を導くOKなどの指示や信号の出し方である。(例:Lesson 1)それらは授業の切れ目を示すだけでなく、授業中、生徒たちを方向づけるのにも役立つ。そして、教師は、現在学んでいることと、それ以前に学んだことを結びつけることで、生徒にこれからすべきことを理解させられる。
- c)生徒たちが全員参加できるように、順番に工夫して指名していくこと。
- Turn-Allocationは、生徒たちが新しい言語をどれだけ練習できるか、どの程度授業に参加できるかということに関係があるので、特に重要である。すぐれた教師は様々なバリエーションを用いたが、指名(発言)の手順があり、子供たちはそのことを熟知していたし、忘れている時は、思い出さなければならなかった。(例:Lesson 4)
- 劣ったクラスでは、よく聞き、積極的な生徒ばかりが指名され、できない生徒は参加の機会が少なかった。機械的に指名していくのは人数が少ない時は良いが、人数が多くなると、なかなか順番が回ってこないという以上に、せっかく順番が回ってきても、生徒たちはほとんど興味を失っていた。最悪なのは、教師が一方的に話していて、生徒側の参加が全くなかった例(例:Lesson 2)である。
- ●インプットとして機能する教師の発話の特徴●
事例として取り上げる生徒は、いずれもLEPのクラスの生徒たちで、2年以上英語の勉強をした子供は皆無に近かった。調査をおこなった時点では、学校で話されていることを理解するためには多大の助力が必要であったし、教師もまた、込み入った実演できないような事柄を扱う時は大変であった。
- a)使用する言語を明確に分離する。
- 英語で伝えたことを生徒が理解できていない時でも、母語に翻訳して再度伝えることは、余り良い解決策ではない。これは失敗に終わったクラスでしばしば見られたことである。言語学習が順調にいったクラスでは、二つの言語は違った時に違った教師によって使われ、イマーション教育の教師のように、一つのクラスで混同して用いられることはなく、目標言語によって教授内容の説明がなされた。
- 英語とLEPの生徒の母語と、両者を置き換えながら教えると、教師は生徒たちが理解したものと思いがちだが、実は言語学習に悪影響しか与えない。言語学習は、生徒が相手の言うことを理解しようとする時、または教師が相手に理解させようと方策をこうじる時に起こる。翻訳されてしまうと、教師はこういう努力を怠るし、生徒側も英語を理解する必要性を感じなくなる。
- スペイン語を使って英単語を教えていた授業の例(Lesson 2)では、生徒たちはスペイン語の解説にしか注意を払わず、英語を聞いていたとしても理解できていたかは疑わしい。また、教師が教えようとしている言葉が、どのように使われるのか理解できている生徒は少なかった。成功したクラス(例:Lesson 3)では、教師は英語しか用いず、新しい言葉を生徒が知っている言葉と結び付けて教えていた。言語学習の初期段階では、neighborhoodのような概念を教えることの方が大きな問題になる。
- b)コミュニケーションと理解に重きを置く。
- 教師は絵や実演、身振りなどを使って、情報をある程度まで生徒たちに伝えることができる。教師はどうしても全てを教えようとしてしまいがちだが、内容についても言語についても調整が必要である。教授内容の修正や言語の調整によって、教師は生徒がどの授業であれ、何かを学ぶことを可能にしている。我々が観察した授業では、言語は教科内容を伝達するために使われるものであって、それゆえ言語そのものを練習する典型的なESLの授業とは異なっている。
- 数学の授業(例:Lesson 1)の場合、教授内容は分数、方程式、割り算とかなり難しいものであったが、いずれの概念の意味についても、デモンストレーションによって示され、生徒たちは限られた英語力しかないにも関わらず、難無く授業についていった。教師は口頭で説明しつつ、黒板に書いて示すことによって、新しい概念を生徒たちが既知の概念と結びつけた。
- c)授業で使用される言語は文法的であり、適当なものであること。
- 非文法的な形やフォーリナートークは、成功した授業では絶対に用いられなかった。授業で使用される言語は、情報を伝えたり、スキルを教えたりするためのものなので、通常の話し方と比べて、より精密で、説明的で、陳述的である。これは子供たちが学校で身につけなければならない言語であり、教師によってこのレベルまで到達することが重要である。
- d)パターンや決まり切った手順(routine)を繰り返し使用すること。
- 特に数学の授業に関しては、教師は決まったパターンややり方を採用する。inventor, sailor, tailorなどの言葉を説明する際(例:Lesson 4)にも、同じやり方が繰り返して用いられた。教師は学習者が構造上の規則を発見できるように手助けし、入り組んだ構造に親しめるようにする。
- e)繰り返しの重視。
- 成功したクラスの教師は、生徒に文型を示しただけではなく、同じ文章を聞く複数の機会を与えた。(例:Lesson 4)繰り返しは全く同じである必要はないが、生徒が気づく範囲で若干異なっている。学習者は置き換えの規則を見いだし、同じことを表現する別な言い方への鍵を手に入れる。教師は様々な方法を採用することで、生徒たちに何が語られているのか推測する複数の機会を与える。
- f)生徒が参加できるように授業を仕立てる。
- 良いクラスと悪いクラスとでは、生徒に対する質問の仕方が異なっていた。一語で答えられる質問(one-word answer)は、説明的な答えを要求する質問(open-ended answer)ほどよくはないが、しかし学習の初期段階では、後者のような質問に対して反応することは難しい。
- 効果の上がらなかったクラスでは、生徒に対して幾つもの非生産的な質問がなされた。また、できる生徒しか指名しなかったので、英語ができない生徒は参加の機会が少なく、また参加しても受け身になりがちであった。更には、教師が生徒の答えを要求していないかのような、自問自答している質問の仕方もあった。(例:Lesson 2)
- 成功したクラスでは、教師は個々の生徒の能力に見合った質問に仕立てていた。説明を要するような質問もするが、英語を学び始めた子供には、一語で答えられるような質問をする。難しい内容の教材の時は、特に一語で答えられる質問しかしない。このようにして、教師は授業に対する生徒の注意を喚起する。教師は生徒の一語の答えを繰り返すか、フルセンテンスに直して聞かせる。
- g)言語が豊かで、時々は遊びがあること。
- 学習者が新しい言語について、基礎的なことをある程度マスターしないうちは、教師は普通とは異なる特殊な言い回しは避けるべきである。我々が観察したクラスでは、教師は極力簡単な表現を試みていたが、決して多くのESLの授業で見られるような削られた、不自然な英語ではなかった。教師は生徒たちに言語の雰囲気を伝える多くの機会を持ち、また授業では遊びも見られ、教師自身が言葉遊びを楽しんでいる。(例:Lesson 5)
- 教師は言語使用について独創的である必要はないが、無意識のうちに、はっきりと効果的にコミュニケーションをすることができていた。
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