Bilingual and Multicultural Education:Canadian Perspectives pp.71-92
Jim Cummins
The Minority Language Child

《要旨》

 ここでは、次の3点について述べられている。

 まず、西部の産業化された地域での教育システムのマイノリティ−言語の子供たちへの影響。次に、それらのデ−タを基にして考えられた、心理教育学的見地からの仮説。そして、それらの様々な仮説の有効性に関する調査結果‥‥についての以上3点である。しかし、近年の調査研究の結果や評価は、マイノリティ−言語の子供たちに携わる教師達の考え方には反するというものであった。特に学校での成績の悪いマイノリティ−言語の子供たちにとって、第2言語(英語)で集中的に教育指導するということは、必ずしも適切な方法ではないということを示唆する結果があらわれたのである。

《第二言語教育》

 マイノリティ−言語の子供たちに母語で教育するということの重要性を心理教育学的にも裏付られるということが明らかになった。この問題は出稼ぎ労働者や外国人労働者の増加といった、社会的問題とも深く関係してくるものであるが、それ以上に文化的背景に依存し、マイノリティ−言語の人々はたいてい彼ら独自の文化をつらぬき、持ち続けたいと思っているようである。

 ところでマイノリティ−言語の子供たちの教育的発達(未発達)を誘発するような心理教育学的な要因はいろいろあるが、今日までの研究によって、彼らにとっての最も適切な要因を結論付けることが出来るようである。
 まず、第2言語のみによる教育環境の中で、様々なマイノリティ−言語の集団間で子供たちの学力の伸び方に差が出てくる。これは、社会的経済力とは関係なく、むしろ、その集団の文化や家庭環境といった、社会文化的要因と関わってくるようである。そしてこの社会文化的要因は政治的或いは歴史的な変遷を経て現代に至っているのである。
 また、「Language Shelter Program」については、第2言語のみの教育環境において、成績の悪いマイノリティ−言語の子供たちにとっては、失敗経験を減少させるのには効果的であるという調査の詳述がされている。
 ところで、調査によると、マイノリティ−言語の子供たちにとっての「Language Shelter Program」でも、英語を母語としている子供たちにとっての「Immersion Program」でもその言葉を通して受けた教育の時間量は、英語力との相関関係はないという結果がでている。これは、母語でのより多くの生活経験によって第2言語が裏打ちされるということである、従って、母語でのしっかりした教育を受けることが子供の概念形成を促進することにつながるといえよう。その意味で、母語での教育の時間量は、母語能力と深く関わってくるのである。
 第2言語のみの教育環境におけるマイノリティ−言語の子供たちの中でも、成績の良い子供たちをみてみると、必ずしも「Bilingual Program」や「Language Shelter Program」は必要でないようである。そして、2ヶ国語を自由にあやつれるということは、子供の認知機能の発達にも影響があるということも言える。これらの研究結果は、バイリンガルの優位性を説くと共に、教育システムの中でマイノリティ−言語の子供の潜在能力を引き出す方法を模索すべきであるということも提案している。ちなみに、カナダ西部には、そのようなプログラムを実行している学校があるということもつけ加えておきたい。
 このように、近年の調査・研究の結果はマイノリティ言語の子供たちの教育に携わる多くの教師たちが直観的に信じ込んでいることからは、かけ離れすぎているものである。忘れてはならないことは、マイノリティ言語の子供たちの中でも特に成績の悪い子供たちにとっては、第2言語を媒介とするような教科学習は、決して適切な教育方法ではなく、母語での概念形成を優先させるべきであるということである。従って、教育政策立案者は、柔軟な対応と偏見のない考察をするべきであると言えよう。それは、マイノリティ−言語の子供たちにとっての真の心理教育学的ニーズに基づき、潜在するひとりひとりの能力を最大に引き出すこと、及びその親たちの社会的・文化的観点からの期待を、すべて考慮に入れたものでなくてはならない。


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